はじめに:なぜ「準備」がIT転職成功の分かれ道になるのか
IT業界での転職は、他業界に比べて求人数も多く、一見するとチャンスにあふれているように見えるかもしれません。ですが、実際には「せっかく転職したのに年収が下がった」「前職よりも激務になった」「やりたかった仕事と違った」といった“転職の失敗談”が後を絶ちません。
その多くに共通している原因——それは「準備不足」です。
たとえば、目の前の求人に飛びついてしまったり、「なんとなく今の仕事が合わないから」と曖昧な動機で転職を進めたりするケースは典型的な失敗パターン。転職とは、いわば“未来の自分への投資”です。その投資が成功するかどうかは、どれだけ事前に情報を集め、戦略を練り、自分を深く理解できているかにかかっています。
私はこれまでに3度の転職を経験し、そのすべてで年収アップとキャリアのステップアップを実現してきました。なぜそれが可能だったのか。それは、「とにかく準備に時間をかけた」からです。
初めての転職活動を始めたとき、私は「とりあえず気になる求人に応募してみよう」と考えていました。けれども、書類選考すら通らず、面接で何を話していいのかわからない。そんな中で気づいたのが、「自分が何をしたいのか、何ができるのかを整理していなかった」ことでした。
Q. 忙しくて準備の時間が取れません。どうしたらいいですか?
A. 1日15分でもOK。スマホのメモアプリに思いついた業務内容や実績を記録するだけでも、1週間で見える化が進みます。小さな積み重ねが大切です。
この記事では、これからIT業界で転職を考えている方が失敗を避け、キャリアアップを成功させるための“5つの準備”について、実体験をもとにわかりやすく解説していきます。
転職で後悔しないために、まずは「正しい準備」から始めてみませんか?
現職・過去の経験を棚卸しする|スキル・成果の見える化
転職活動の第一歩は、「自分を正しく理解すること」。
特にIT業界では、“今まで何をやってきたか”が非常に重視されます。これは職務経歴書を作る際だけでなく、面接や年収交渉の場面でも必ず問われるポイントです。
ここで重要なのが、自分の「実績」や「スキル」を言語化して、第三者に伝わる形にしておくことです。
まずは、自分の業務を振り返ってみましょう。以下のような視点で棚卸しを進めていくと、抜け漏れが少なく整理しやすくなります。
- どんなプロジェクトに参加してきたか?
- その中で自分はどんな役割を担ったか?
- 使った技術やツールは?(例:Java/Python/AWS/Gitなど)
- チーム規模、工数、納期、予算感
- 成果として数字で語れることは?(例:バグ件数削減、月間PV◯%向上など)
たとえ「開発の一部だけを担当していた」としても、そこで得た知見や工夫したことがあれば、それは立派なアピール材料です。
▼棚卸しに使えるテンプレート例
プロジェクト名 | 期間 | 担当業務 | 使用技術 | 工夫・成果 |
---|---|---|---|---|
ECサイト構築PJ | 2021/4〜2022/3 | バックエンド開発 | PHP, Laravel, MySQL | バッチ処理を改善し月次集計処理を30%高速化 |
クラウド移行PJ | 2023/1〜2023/10 | 要件定義〜設計 | AWS, Terraform | 手作業だった構成管理をIaCで自動化、構築時間を50%削減 |
さらに、「その経験を今後どう活かせるか?」まで考えておくと、職務経歴書だけでなく面接時にも説得力が増します。
Q. 経験をうまく言語化できません。どうしたらいい?
A. 過去の案件ごとに「課題→対応→結果」の流れでメモするのがおすすめ。結果は数値化(例:〜%削減、工数〜時間短縮など)できるとベターです。
この作業は、単に応募用の資料作りだけではありません。自分の価値を客観的に理解することにもつながります。 また、自分が「どのようなポジションに向いているか」「何がやりがいと感じるか」を明確にする手がかりにもなります。
- 過去3年間のプロジェクト内容をすべて書き出せたか?
- 具体的な成果や改善ポイントを数字で表せたか?
- その経験を今後どのように活かしたいかを言語化できたか?
自分の市場価値を知る|今のスキルでどれだけ通用する?
「自分のスキルや経験が、今のIT業界でどの程度評価されるのか?」
これを把握せずに転職活動を始めてしまうのは、目的地も地図も持たずに旅に出るようなものです。
転職を成功させるには、“現在の市場価値”を客観的に把握することが不可欠です。これにより、年収の適正ラインや、応募すべきポジションの精度が大きく変わってきます。
▼ 市場価値を知る3つの理由
- ① ミスマッチを防げる:「この企業、自分には合っていなかった」と後から気づく前に、自分に見合った企業を見極めやすくなる。
- ② 年収交渉の材料になる:相場を知らずに年収を決めるのは、価格を知らずに買い物するようなもの。相場感を持って交渉できれば、妥協のない条件提示が可能に。
- ③ 自信を持てるようになる:「こんな自分が転職して大丈夫だろうか」と不安に思っていた人が、スカウトやデータを通じて評価されていることを実感できる。
▼ 市場価値を調べるための実践手段
- ・MIIDAS(ミイダス)
職歴やスキルを登録すると「想定年収」や「オファー可能な職種」が即時に算出される無料サービス。 - ・dodaの年収査定ツール
同職種・同年代・同スキル層の年収データと比較して、自分の現在地を把握できる。 - ・エージェント面談
業界専門のアドバイザーに話を聞いてもらうと、自分が気づいていなかった強みに気づけることも。
Q. スカウトが来ない=市場価値がないってこと?
A. いいえ、そうとは限りません。スカウトが届くかどうかは「職務経歴の書き方」や「登録サービスとの相性」に左右されます。複数サービスを使い分け、情報を更新しましょう。
市場価値の把握は、「転職を始める前」の段階でも可能です。むしろ、事前に市場価値を確認することで、自分の方向性や狙うべき企業が明確になるというメリットがあります。
- 直近3年以内に使用した技術をリスト化できている
- 年収相場を把握するためのツールを使ってみた
- 職務経歴書に数字や実績を具体的に盛り込んだ
- 複数エージェントに登録し、フィードバックを受けた
キャリアの軸を明確にする|“なんとなく転職”はNG
転職活動を始めると、つい求人票の条件や年収に目がいきがちです。ですが、そこに「自分のキャリアの軸」がなければ、選択肢はむしろブレていく一方です。
“なんとなく転職”は失敗のもと。
後悔しないためには、「なぜ転職するのか」「どんなキャリアを目指すのか」をはっきりさせる必要があります。
求人サイトを眺めていると、「なんとなく今よりよさそう」「年収が上がりそう」という理由だけで応募してしまいがちです。しかし、軸が曖昧なまま転職すると、入社後に「やっぱり違った」「またすぐ転職したくなった」という結果に陥りやすいのです。
▼ キャリアの軸を定めるためのフレーム:Will / Can / Must
視点 | 考えるべき問い |
---|---|
Will(やりたいこと) | どんな働き方・環境にやりがいを感じるか?10年後どうなっていたいか? |
Can(できること) | 自分が得意な業務や成果を出してきた領域は何か? |
Must(求められること) | 市場や企業が今求めているスキルや役割は何か? |
たとえば、「PMとしてのマネジメント経験があり、複数案件を円滑に回した実績がある」なら、次の転職では“事業部横断のプロジェクト推進”や“チーム設計から関われる立場”が軸になるかもしれません。
逆に、「技術を深めたい」「手を動かして成長したい」というエンジニア志向であれば、裁量がある小規模開発チームやテックリード職を目指すことが合理的です。
Q. キャリアの軸ってどうやって見つけるの?
A. 過去の仕事で「楽しかったこと」「評価されたこと」「逆に苦手だったこと」を書き出してみてください。共通点を抽出することで、自分の価値観や方向性が見えてきます。
- この転職は何のため?年収?働き方?スキル?
- 3年後の理想の状態に近づく選択か?
- 「この会社に入りたい理由」が“条件”以外で言えるか?
キャリアの軸を言語化しておくと、求人の取捨選択だけでなく、志望動機・面接回答・年収交渉にも一貫性が生まれます。転職活動全体の「軸」として、ぜひ言語化に取り組んでみましょう。
情報収集と業界研究を怠らない|企業選びは8割がリサーチで決まる
「転職に失敗した…」という人の多くが口にするのが、「入ってみないとわからなかった」という言葉。ですが、その多くは事前の情報収集や業界研究で回避できた失敗でもあります。
実際、転職の成否は“応募前”の段階で8割が決まるとも言われています。
企業や業界に対するリサーチをどれだけ丁寧に行うかが、転職成功の分かれ道になるのです。
▼ 企業研究のチェックポイント
- 企業の事業内容・主力サービスは?
- 売上推移や成長性(IR情報や資金調達履歴など)
- 働いている人の声(OpenWorkやX(旧Twitter)
- 職種別のリアルな働き方(WantedlyやQiita求人)
- 「社風」に関する記述が求人票と口コミで一致しているか
たとえば、ある企業では「フルリモートOK」と書いてあったにも関わらず、実態は「週3は顔出し必須」「フル出社の人だけが昇進しやすい」という内情がありました。
こういった“ギャップ”は、応募前のリサーチで回避可能です。
▼ 情報収集に役立つツールとアプローチ
- ・OpenWork / 転職会議:部署別の口コミや評価制度がリアルに確認できる
- ・エージェント面談:求人票には書かれない「その企業が今なぜ募集しているのか」が聞ける
- ・技術ブログや勉強会登壇者:開発方針やカルチャーを把握しやすい
Q. リサーチしすぎて逆に迷ってしまいます…
A. 判断軸を明確にしましょう。「自分にとって譲れない条件TOP3(例:年収・働き方・成長環境)」を決め、優先度で絞っていくと迷いが減ります。
✔ 企業研究の実践チェックリスト
- 公式サイト以外の情報源を3つ以上使った
- 口コミと求人票に矛盾がないか確認した
- 自分の軸に合っているかを言葉で説明できる
情報収集は「読むだけ」では意味がありません。調べた内容をもとに「なぜ自分に合っているか」を言語化し、志望動機や面接対策に活かすことで、はじめてリサーチの価値が生まれます。
転職のプロを味方につける|エージェント活用のススメ
IT業界の転職活動は、情報の量と質が勝負です。求人票の条件だけで判断するのは危険で、企業の実態・内情・選考傾向など、書かれていない情報にこそ価値があります。
そこで活用したいのが、転職エージェントです。求人紹介だけでなく、キャリア設計・企業との条件交渉・面接対策まで、幅広いサポートをしてくれます。
▼ エージェントを使うべき3つの理由
- ① 書類通過率・内定率が格段に上がる:職務経歴書の添削・推薦文の添付により、通過率が2倍以上になるケースも。
- ② “非公開求人”を知ることができる:年収800万以上やハイクラス案件の多くは、一般サイトには出ていません。
- ③ 自分では気づけない選択肢が見つかる:第三者視点で“意外な適職”を提案されることもあります。
▼ 転職サイトとの違い比較表
項目 | 転職サイト | エージェント |
---|---|---|
求人の探し方 | 自分で検索 | 担当者が提案 |
非公開求人 | 少ない | 多い |
面接対策・書類添削 | なし | あり(無料) |
進捗管理 | 自己管理 | スケジュール調整・リマインドあり |
特に「どこから応募しても一緒でしょ?」と思っている人ほど、自己応募とエージェント経由の差に驚くはずです。
Q. 担当者にハズレが当たることはある?
A. はい、正直あります。ただし、エージェントの担当は変更可能です。無理に合わない人と進めず、複数社に登録し比較することをおすすめします。
▼ 良いエージェントを見極めるポイント
- IT業界に関する知見がある(例:言語や開発手法の理解がある)
- 応募を急かしてこない
- メリット・デメリットの両面を伝えてくれる
- 企業側の選考傾向や面接官の特徴まで把握している
- 1社だけでなく2〜3社に登録して比較した
- 求人票にない情報を担当者に質問した
- 担当者の提案内容に納得感があるかを見極めた
まとめ:準備が9割。IT転職の成功は「静かな努力」で決まる
IT業界での転職は、スキルがすべてと思われがちですが、実際にキャリアアップに成功している人たちは共通して「徹底した準備力」があります。
今回ご紹介した5つの準備:
- 経験とスキルの棚卸し
- 自分の市場価値を知る
- キャリアの軸を定める
- 企業研究と情報収集
- 転職エージェントを活用する
これらの積み重ねが、後悔のない転職を実現するカギです。焦らず、しっかり準備を重ねることで、自分に合った企業・働き方に出会える可能性が高まります。
転職は「勢い」ではなく「戦略」。成功する人は、派手に動いているようで、その裏でコツコツと準備を重ねています。表に見えない部分こそが、選考の合否や年収アップを左右するのです。
Q. 準備ばかりして行動できなくなりそう…
A. その気持ちもよくわかります。大事なのは“完璧な準備”ではなく、“今の自分でできることを確実にやる”こと。
まずは1つの準備から手をつけてみましょう。
- 今日、自分のスキル・経験をメモアプリに書き出す
- ミイダスやdodaで市場価値診断をしてみる
- 気になる企業を3社だけ調べてみる
- 無料の転職エージェントに登録だけしてみる
「今よりもっと、自分らしく働ける場所」は、派手な行動の先ではなく、丁寧な準備の先にあります。
✔ 転職準備を始めるあなたへ、ひとこと
焦らず、比べず、あなたのペースで。 “転職成功”の定義は人それぞれ。
あなた自身が「納得できる転職」を目指しましょう。