2025年の壁とは?日本のIT業界に迫る危機とエンジニアが取るべき対策

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2025年の壁とは何か?|日本のIT業界が直面する構造的課題

「2025年の壁」とは、日本企業が長年使用してきたレガシーシステムの老朽化と、それに伴う人材の高齢化・不足により、2025年以降に深刻な経済損失が生じる可能性があるとされる問題です。

この言葉が注目されるようになったきっかけは、2018年に経済産業省が発表した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』です。報告書の中では、「2025年までにレガシーシステムの刷新ができなければ、日本経済全体で年間最大12兆円の損失が発生する可能性がある」と警鐘を鳴らしました。

多くの企業では1990年代から2000年代に導入された基幹系システムを、ほぼそのままの形で使い続けています。これらのシステムは、当時のビジネス要件に最適化されており、今日のビジネス環境の変化や技術の進歩に柔軟に対応できない構造になっていることがほとんどです。

さらに、こうしたシステムは複雑で、かつ長年の運用により仕様がブラックボックス化しており、特定のベテラン社員しか全体像を把握していないというケースも少なくありません。そのベテラン社員が退職すると、保守・改修・移行のいずれも困難になり、IT資産としての価値が一気に損なわれてしまうのです。

このような状態が放置されたまま2025年を迎えれば、企業のシステムは競争力を失い、デジタル化に乗り遅れるどころか、事業継続すら困難になるとされています。経産省のDXレポートは、単なるIT部門の問題ではなく、企業経営・社会インフラ全体の問題として捉えるべきだと強く訴えています。

つまり「2025年の壁」とは、老朽化したITシステムと、スキルを持ったIT人材の不足が同時に訪れることで、日本の企業や経済が急激な崖に直面するという「デジタル時代の構造的危機」を意味するのです。

レガシーシステムの限界と放置の代償

レガシーシステムとは、導入から長年経過し、技術的にも運用面でも時代遅れとなった情報システムのことを指します。これらのシステムは、もともとは当時の業務ニーズに応じて開発されたものであり、多くの企業にとって今なお基幹業務の中核を担っています。

しかし、時代の変化や技術の進化に伴い、レガシーシステムには次のような問題が顕在化しています。

  1. 保守・運用コストの高騰
    多くのレガシーシステムはCOBOLや独自言語で構築されており、対応可能な技術者が年々減少しています。限られた人材に依存することで、保守費用は高騰し、経営を圧迫します。
  2. セキュリティリスクの増加
    古いOSやミドルウェアを使い続けているケースが多く、脆弱性が放置されがちです。セキュリティパッチが適用できない環境では、サイバー攻撃の標的にもなりやすくなります。
  3. ブラックボックス化による対応困難
    長年の改修や機能追加によって構造が複雑化し、設計書も更新されていないケースが珍しくありません。属人化が進み、対応できる担当者の退職によって「誰も中身を知らない」システムとなるリスクがあります。
  4. 業務の硬直化とDX阻害
    新たなビジネスモデルやクラウドサービスとの連携が難しく、企業全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進を妨げる大きな要因になります。

さらに、こうしたレガシーシステムが障害を起こした場合、その復旧にも時間とコストがかかります。実際、金融機関や自治体のシステム障害の原因として、老朽化したシステムのトラブルが報告されており、社会的信用の失墜にもつながりかねません。

企業がレガシー環境から脱却できない理由としては、コストの問題もあります。システム再構築には多額の投資が必要であり、「現状動いているものを変える必要がない」といった保守的な経営判断が、刷新のタイミングを先送りにしてしまうのです。

しかし、変革を先送りにすることこそが最大のリスクです。いざという時にシステムがボトルネックとなり、事業継続が困難になる。そうした「技術的負債」を抱え続ける限り、企業の競争力は確実に低下していくのです。

企業と国の取り組み|DX推進とデジタル人材の育成

「2025年の壁」を乗り越えるために、国と企業の両レベルでさまざまな対策が講じられています。特に政府は、危機的状況を打破すべく、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進のための政策を加速させています。

■ 国の施策:制度・支援・認定制度の整備

経済産業省は、企業のDX推進度を可視化するために「DX認定制度」を設けています。この制度により、一定の要件を満たす企業は「DXに取り組む事業者」として国からの認定を受けることができ、対外的な信頼性向上や、各種補助金・支援制度の利用において有利になります。

また、IT人材の再教育と標準化を目的として「デジタルスキル標準(DSS)」が整備されました。これにより、エンジニアだけでなく、営業や企画などのビジネスパーソンも、DXに必要な基本的スキルセットを習得しやすくなっています。

他にも、クラウドサービス導入やセキュリティ強化を支援するためのIT導入補助金、中小企業向けの専門家派遣支援なども進んでおり、国は官民一体でのデジタル刷新を後押ししています。

■ 企業の取り組み:技術刷新と業務改革

一方、民間企業側も、DXを成し遂げるべく積極的な取り組みを始めています。主な動きとしては以下のようなものが挙げられます。

  • クラウド移行の加速:オンプレミスからAWSやAzureなどのクラウド基盤へシステムを再構築
  • API活用とマイクロサービス化:既存システムとの連携性を高め、開発の柔軟性を確保
  • ローコード/ノーコードツールの導入:非エンジニアでも業務アプリを構築し、開発内製化を推進
  • RPAやAIの活用:定型業務を自動化し、業務効率と人材リソースの最適化を図る

これらの取り組みは単なるITの「刷新」にとどまらず、ビジネスプロセス自体の改革を含んでいます。つまり、DXとは単なるIT部門の課題ではなく、全社的な構造改革と企業文化の変革に他なりません。

ただし、こうした先進的な取り組みを進められている企業は一部にとどまり、多くの中堅・中小企業では予算や人材の問題からDXが進まず、「部分的なデジタル化」に留まっているのが現状です。特に地方企業やレガシー産業では、いまだ紙ベースの業務が根強く残っており、格差は拡大しています。

DX成功の鍵は、明確な経営ビジョンとIT部門の主体性、そして社員一人ひとりのスキルアップとマインドチェンジです。2025年の壁を乗り越えるには、部分最適の改善ではなく、全体最適を見据えた「未来志向のデジタル投資」が不可欠といえるでしょう。

エンジニア個人にとっての2025年の壁|ピンチかチャンスか?

「2025年の壁」と聞くと、多くの人は企業側の課題と捉えがちですが、実際にはITエンジニア一人ひとりにとっても重大な意味を持ちます。特に20代~30代の現場エンジニアやIT業界にこれから挑もうとしている人にとっては、自らのキャリア形成における大きな転換点となり得るのです。

まず注目すべきは、レガシー刷新やシステム移行といった大規模なプロジェクトが今後数年で急増するという点です。企業が基幹業務システムをクラウドに移行したり、業務フローを見直すためには、それらを実装・支援するエンジニアが不可欠です。そのため、今後は「レガシー脱却を推進できるエンジニア」の市場価値が大きく上昇すると考えられます。

特に以下のようなタイプの人材が、2025年以降の現場で求められる存在となります。

  • レガシー言語を理解できる人材(COBOL、PL/I、VBなど)
  • クラウドネイティブな構成への移行に詳しい人材(AWS、Azure、Kubernetesなど)
  • 業務部門と連携して課題整理・要件定義ができる人材(ITコンサル・SE型)
  • 既存システムとの橋渡しができる「ハイブリッド型人材」

こうしたスキルを持つことで、「誰にでもできる実装作業」から脱し、プロジェクトの中核を担うエンジニアとして活躍できるようになります。特に、レガシー環境と最新技術の両方に一定の理解がある人材は、組織内外で重宝される存在となるでしょう。

一方で、最新技術ばかりに目を奪われて旧来システムの理解を軽視してしまうと、現場での実務に対応できないというリスクもあります。マイグレーションやデータ移行、既存システムの調査分析といった「地味だが重要」なスキルこそが、2025年の壁を乗り越えるキーポイントです。

また、「レガシー刷新」は一過性の流行ではありません。人口減少と人材不足が続く日本において、今後も長期的に求められるテーマであり、むしろエンジニアとして生き残るための“必須領域”とも言えるでしょう。

今の時点でキャリアの方向性に迷っている人こそ、2025年の壁を「自分の価値を高めるチャンス」と捉え、積極的にレガシー刷新やDX推進プロジェクトに関わってみることをおすすめします。「壁」ではなく「跳躍台」として、このタイミングを活用できるかどうかが将来の分かれ道になるかもしれません。
今からできる具体的アクション|学び・備え・キャリア構築

2025年の壁は確実に迫っていますが、それは決して“避けられない崖”ではありません。むしろ、今この時点から行動を起こせば、個人としてのキャリアを大きく伸ばすチャンスになります。ここでは、エンジニアが今から備えるべき具体的なアクションについて紹介します。

■ 今こそ学ぶべきスキルセット

まず最優先で取り組みたいのは、クラウドやモダンアーキテクチャへの理解です。特に以下のような技術は、DXやシステム刷新の文脈で非常に重宝されます。

  • AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのクラウド基盤
  • マイグレーション設計(Lift&Shift/再設計/段階的移行)
  • コンテナ技術(Docker、Kubernetes)
  • インフラ自動化(IaC/Terraform/Ansibleなど)
  • CI/CDパイプラインとDevOps文化

また、単に技術を習得するだけではなく、業務プロセスやユーザー視点の理解も重要です。刷新されるシステムは単なる置き換えではなく、業務そのものの再設計を伴うケースが多く、現場業務を正しく理解し、ITでどう改善できるかを考える視点が求められます。

■ キャリアアップに役立つ資格・学習法

体系的な知識を習得し、客観的なスキル証明として活用できる資格の取得も有効です。

  • AWS認定 ソリューションアーキテクト(アソシエイト):クラウド設計の基礎力を証明
  • 基本情報/応用情報技術者試験:国家資格として基礎技術の網羅に有効
  • DX検定/ITストラテジスト:ビジネス視点も含めた高度な判断力を評価

学習にはオンラインスクール(Udemy、Schoo、TechAcademyなど)やYouTube講座、業務での実地経験の両輪で取り組むのが理想です。特に現職の中でマイグレーションや改善提案に関わるチャンスがあるなら、積極的に手を挙げることをおすすめします。

■ 中長期のキャリア構築戦略

目先のスキルアップに加えて、5年先、10年先を見据えたキャリア設計も欠かせません。今後は以下のようなキャリアパスが注目されます。

  • 現場エンジニア → DXコンサル/ITアーキテクトへ
  • レガシー保守 → クラウド構築+PM経験のハイブリッド型へ
  • 社内SE → グループ全体のIT戦略立案やPMO職へ

転職を含めた外部機会の活用も視野に入れながら、自分がどの位置で価値を発揮できるかを常に再評価していく姿勢が大切です。

「学び→実践→成果→評価→再学習」というサイクルを意識することで、急速に変化するIT業界の中でも軸を持って歩むことができるでしょう。

2025年の壁は、行動した人にとっては“踏み台”になります。技術も働き方も急速に変わる今、立ち止まるのではなく、一歩を踏み出すタイミングこそが最も重要です。